エネルギーシステム—「終盤で動けない」を科学でほどく

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ラリー後半で脚が重くなる、終盤で反応が遅れる、技術はあるのにミスが増える——。
それは「気合い」ではなく、筋が仕事をするための“燃料供給(ATP再合成)”が一時的に破綻しているサインです。
本稿では、エネルギーシステムを「試合の出来に直結する設計図」として整理し、練習メニューを“狙って作る”視点まで落とし込みます。

この記事で分かること

  • エネルギーシステム(ATP-PCr系/解糖系/有酸素系)の役割分担
  • バドミントンで「主役」と「土台」になる供給系の考え方
  • 同じフットワーク練習でも“効き方”が変わる理由(強度×時間×休息)
  • 明日から使える:練習設計のチェックリストと実例

1. なぜ「体力があるのに動けない」のか

「心肺が強い=終盤も動ける」と思われがちですが、バドミントンは短い高強度動作を何度も繰り返す“間欠(インターミッテント)競技”です。
このとき鍵になるのは、全身持久力そのものよりも、高強度の反復でATPを素早く作り直し、ラリー間で回復できるかです。

  • 脚が止まる:ATP-PCr(ホスファゲン)系の回復が追いつかず、初動の鋭さが落ちる
  • ミスが増える:代謝ストレスや疲労が注意・判断・技術の安定性を揺らす(反応遅れ・選択ミス)
  • 「息は上がってないのに重い」:心肺だけでは説明しにくい“局所のエネルギー事情”がある

エネルギー供給は「切り替わるスイッチ」ではなく、同時に動いて寄与率が変化する——この前提が重要です(Gastin, 2001)。

2. エネルギーシステムの基本(3つ+重要な誤解)

2-1. 3つの供給系(ATPを作る“工場”)

  • ATP-PCr系(無酸素・非乳酸):最速でATPを再合成。ジャンプ、初動、ダッシュなど“瞬発”の主役。
  • 解糖系(無酸素・乳酸系):高強度を少し長く支えるが、代謝産物の蓄積とともにパフォーマンスが落ちやすい。
  • 有酸素系(酸化系):出力は低めだが容量が大きい。ラリー間の回復・PCr再合成・恒常性の回復を支える。

2-2. よくある誤解:「この練習は有酸素/無酸素」

実際は、どの運動でも3系は同時に働き、強度と継続時間で寄与率が変わります(Gastin, 2001)。
さらに、反復スプリントのような局面では、有酸素系は“走り続ける出力”というより、休息で回復させる役が大きいと整理されています(Girard et al., 2011)。

図表1:運動時間と主な寄与(目安)
運動の時間スケール 主な寄与 バドミントンの例
~10秒 ATP-PCr系が大 レシーブ初動/前後の1本目の飛び込み
10~60秒 解糖系の寄与が増える 長いラリーでの連続加速・連続ジャンプ
反復(高強度+短休息) ATP-PCrの回復を有酸素系が支える 試合全体(ラリーの繰り返し)

※寄与率は競技レベル・戦術・ラリー長で変わります。ここでは「設計の考え方」を得るための目安として扱ってください。

3. バドミントンの試合構造と“どの系が働くか”

バドミントンの特徴は、高強度の短い動作(加速・減速・ジャンプ・方向転換)を、休息を挟んで反復する点です。
近年の研究でも、試合(または試合に近い形式)での心拍・代謝応答やラリー特性が報告されており、間欠競技としての性格が確認できます(Green et al., 2023)。
また、ラケットスポーツ全体のレビューでも、心拍や乳酸などの内部負荷が整理され、競技特性に合わせた調整の重要性が示されています(Cádiz Gallardo et al., 2023)。

  • 主役:ATP-PCr系(初動・一歩目・切り返しの鋭さ)
  • 崩れ始めに関与:解糖系(長いラリーや連続局面で代謝ストレスが増える)
  • 土台:有酸素系(ラリー間で回復して、次の高出力を可能にする)

したがって「スタミナを付ける」とは、単に長く走れる能力ではなく、高強度を反復できる回復能力(再合成能力)を底上げすることだ、と言い換えた方が競技に直結します(Girard et al., 2011)。

4. 練習メニューをエネルギーシステムに対応づける

4-1. “同じ練習”を別物にする3変数

  • 強度(全力か、7〜8割か)
  • 継続時間(何秒動き続けるか)
  • 休息(何秒・どんな休み方か)

反復スプリント能力(Repeated-Sprint Ability, RSA)のレビューでは、疲労はスプリント速度の低下として現れ、
その背景にPCr低下、代謝ストレス、神経筋要因などが絡むと整理されています(Girard et al., 2011)。
つまり、設計の目的が「速さの維持」なのか「苦しい中での粘り」なのかで、休息設定は変えるべきです。

4-2. 例:フットワーク練習を“狙って”設計する

  • 狙い:初動の鋭さ(ATP-PCr系)
    目安:5〜10秒全力 × 十分な休息(例:40〜90秒)
    ポイント:スピードが落ちたら「量」より「質」を優先
  • 狙い:長いラリー局面の耐性(解糖系の関与)
    目安:20〜45秒高強度 × 短め休息(例:20〜40秒)
    ポイント:フォーム崩れ=目的逸脱。崩れる前に設計を調整
  • 狙い:回復能力の底上げ(土台としての有酸素系)
    目安:反復練習の合間に“呼吸が整う余裕”を確保しつつ総量を積む
    ポイント:試合形式・多球練習で「回復→再加速」を何度も経験する
図表2:練習設計の早見表(目的→設定)
目的 動く時間 休息 評価指標(簡易)
初動・爆発力の維持 5〜10秒 長め スピード(質)が落ちない
長いラリー局面への耐性 20〜45秒 短め〜中 技術の崩れが管理できる
回復能力(反復の土台) 反復全体 設計次第 次のラリー開始時に戻せる

5. 明日からの行動:練習設計チェックリスト

最後に、あなたの練習を“エネルギー設計”として点検する問いを置きます。
これができると、「頑張ったのに伸びない」を減らせます。

5-1. 3つの質問

  1. この練習の主役はどれか?(ATP-PCr/解糖/有酸素)
  2. 強度・時間・休息は、その主役に合っているか?
  3. 評価指標は何か?(スピード維持/ミス率/回復の速さ など)

5-2. すぐ試せる“1週間の小変更”

  • フットワークのうち1メニューだけ、「5〜10秒全力+長め休息」に変更し、
    スピードが落ちない範囲でセットを組む(量ではなく質)。
  • 試合形式の中で、ラリー間に呼吸を整える“回復の型”(鼻吸い→口吐き等)を固定し、
    次の1本目の初動が戻るか観察する。
  • 練習後に1行だけメモ:「動けなくなったのはいつ/何が先に崩れたか(脚・判断・技術)」
    次回の設計修正に使う。

参考文献

  1. Gastin, P. B. (2001). Energy System Interaction and Relative Contribution During Maximal Exercise. Sports Medicine. (PMID: 11547894)
  2. Girard, O., Mendez-Villanueva, A., & Bishop, D. (2011). Repeated-sprint ability – Part I: factors contributing to fatigue. Sports Medicine. (PMID: 21780851)
  3. Bishop, D., Girard, O., & Mendez-Villanueva, A. (2011). Repeated-sprint ability – Part II: recommendations for training. Sports Medicine. (PMID: 21846163)
  4. Green, R. et al. (2023). Notational Analysis and Physiological and Metabolic Responses in Highly Trained Male Junior Badminton Players. Sports (PMC9961854)
  5. Cádiz Gallardo, M. P. et al. (2023). Physiological demands of racket sports: a systematic review. Frontiers in Psychology.

※上記は「引用数が多い総説(エネルギー・RSA)」と、「ラケットスポーツ/バドミントンの生理応答」を組み合わせて、事実ベースで構成しました。

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