「ラリーが速くなると、構えが崩れてミスが増える」
「終盤になると、踏ん張りが効かず一歩目が遅れる」──
こうした感覚に心当たりがあるなら、それは努力不足ではありません。
多くの場合、“鍛えている内容”と“競技で使われる強さ”が噛み合っていないだけです。
バドミントンで必要なストレングスとは、単に重いものを扱えることではありません。
それは、速く動いても姿勢が崩れない、止まりたいところで止まれる、
同じ動きをラリーの終盤まで繰り返せる──そうした動作を支える「土台の強さ」です。
本記事では、研究レビューで整理されているストレングスの役割をもとに、
「なぜ筋トレがパフォーマンスに直結しないことがあるのか」
「バドミントンでは、どの“強さ”を優先すべきか」を、段階的に解きほぐしていきます。
この記事で分かること
- なぜ筋トレをしてもコート上の動きに直結しないことがあるのか
- ストレングス(筋力)がパフォーマンスに効く「3つの経路」
- “鍛えるべき筋力の種類”を、バドミントンの局面で整理する方法
- 明日からの行動(週2〜3回で回す最小構成)
筋トレしてるのに強くならない:よくある誤解
「スクワットの重量は伸びたのに、フットワークやショットのキレは変わらない」──これは珍しくありません。
原因は大きく2つです。第一に、ストレングスは単独で“勝てる動き”を作る能力ではなく、動作の質(タイミング・姿勢制御・出力の方向)に“乗る土台”だから。
第二に、鍛えている強さが、競技で必要な強さ(特に減速・制動や等尺での保持)とズレている可能性があります。
- 重さは挙がるが、切り返しで上体が流れる
- 終盤で接地が乱れ、ミスが増える
- 速いラリーほどフォームが崩れる
ストレングスとは何か:定義と勘違いポイント
ストレングス(筋力)を一言で言えば、力を発揮する能力(最大力とその発揮様式)です。
スポーツ領域のレビューでは、筋力が高いほどジャンプ・スプリント・方向転換などの一般的運動技能が高い傾向が示され、さらに強い選手ほど競技特異的な課題でも優位になりやすいと整理されています。
また、筋力は“瞬発”の話だけでなく、傷害リスク低減に関係しうる点も重要です。
(Suchomelらのレビューに代表されます)[参考文献]
“`
勘違いしやすい3点
- 筋肥大=ストレングスではない(筋量は要素の一部だが、神経系要因も大きい)
- パワー=ストレングスではない(パワーは「力×速度」。土台としての筋力が効く)
- “たくさん挙げる”=競技で強いとは限らない(必要なのは局面適合)
“`
ストレングスがパフォーマンスを上げる3つの経路
“`
① 出力の上限(天井)が上がる
最大力が高いほど、同じ動作でも「余力」が生まれます。結果として、同じスピード・同じ姿勢を保つコストが下がり、
ラリー後半の再現性が上がりやすい。これは相対強度の観点でも説明できます。
② 速い出力(RFD)やパワー発揮の“材料”になる
パワー発揮のトレーニングを語るレビューでは、最大パワーを高めるために「力と速度の両側面」を押し上げる必要があり、
その中で筋力が重要な要素として扱われます(Cormieらのレビューが体系的です)。[参考文献]
③ 減速・制動・姿勢保持が安定する
バドミントンは「加速」だけでなく、止まる/切り返すが連続します。ここで効くのがエキセントリック(伸張性)や等尺性の強さです。
強さが不足すると、接地で潰れて上体が流れ、次の一歩が遅れ、ショットの選択も乱れます。
``` [最大力・各様式の強さ] │ ├─(1) 余力 ↑ → 再現性 ↑(終盤の崩れが減る) ├─(2) パワー/RFDの土台 → 加速・跳躍・スプリントの質 └─(3) 減速/保持の安定 → 切り返し・接地・姿勢制御
ストレングスは1種類ではない:競技局面で整理する
ここが核心です。バドミントンのストレングスは「どの局面で使うか」で分けると、迷いが減ります。
以下は実務上、特に外しにくい分類です。
“`
| 種類 | 主な局面 | 不足すると起きやすいこと |
|---|---|---|
| 最大筋力(Max strength) | 全体の土台(余力・相対強度) | 終盤でフォーム崩れ/スピード練習が伸びない |
| 等尺性(Isometric) | 構えの保持/接地の安定 | 接地でグラつく/上体が起きる |
| エキセントリック(Eccentric) | 減速・切り返し・ストップ | 止まれない/一歩目が遅れる/膝・股関節に負担 |
| 反復耐性(Repeatability) | 連続ラリーの質維持 | 疲労で雑になる/ミス増/判断が遅れる |
なお、筋力が高いほど「ウォームアップや直前刺激(コンディショニング活動)でのパフォーマンス向上」が起こりやすい、という整理もあります。
いわゆるPAP/PAPEのメタ解析・レビューでは、個人の筋力水準や経験が影響因子として挙げられています。[参考文献]
“`
明日からの行動:最小の実装(週2〜3回)
ここでは「やることが多すぎて続かない」を避け、週2〜3回で回せる最小構成を示します。
抵抗トレーニングの進め方は、健康成人向けでも「進行モデル(progression)」が整理されており、経験レベルで設計を変える必要があります(ACSM Position Stand)。[参考文献]
“`
(A)週2回:土台(最大筋力寄り)+安定(等尺)
- 下半身の基本:スクワット or デッドリフト系(低〜中回数で丁寧に)
- 片脚系:スプリットスクワット/ステップアップ(左右差の把握)
- 等尺:スプリットスクワット姿勢で20〜30秒保持 ×2〜3
- 体幹:反り・回旋に耐える種目(例:パロフプレス)
(B)週1回:減速・切り返し(エキセントリック寄り)
- テンポ(ゆっくり下ろす)でのスクワット/ランジ(例:下ろし3秒)
- 着地の練習:小さなジャンプ→静かに止まる(“音を消す”)
- 方向転換ドリル:短い距離で「止まる→押し出す」を分けて練習
(C)セルフチェック:これだけは毎週メモする
- 切り返しで上体が流れないか(動画で確認)
- ラリー後半に接地音が大きくならないか
- ストップ動作で膝が内側に入らないか
明日からの行動(3つに絞る)
- 週2回、下半身の基本種目を「フォーム最優先」で実施(まず継続)
- 週1回、減速(ゆっくり下ろす/止まる練習)を入れる
- スマホで切り返し1本だけ撮影し、「流れ・潰れ・接地音」をチェック
“`
参考文献
- Suchomel TJ, Nimphius S, Stone MH. The Importance of Muscular Strength in Athletic Performance.
Sports Medicine. 2016. (PubMed: 26838985)
Link - American College of Sports Medicine. Progression Models in Resistance Training for Healthy Adults.
Medicine & Science in Sports & Exercise. 2009;41(3):687-708. doi:10.1249/MSS.0b013e3181915670
Link - Cormie P, McGuigan MR, Newton RU. Developing maximal neuromuscular power: Part 2.
Sports Medicine. 2011. (PubMed: 21244105)
Link - Seitz LB, Haff GG. Factors Modulating Post-Activation Potentiation of Jump, Sprint, Throw and Upper-Body Ballistic Performances: A Systematic Review with Meta-Analysis.
Sports Medicine. 2016. (PubMed: 26508319)
Link


コメント