練習ではうまく動けているのに、試合になると肩や腰に違和感が出たり、
フットワークが急に重くなったりする。多くの選手が感じているこの“謎の感覚”は、
技術そのものの問題ではなく、身体の使い方のクセや関節の役割の乱れによって
生じていることが少なくありません。
本記事では、Gray Cook らが提案したジョイントバイジョイントセオリー
を手がかりに、痛みの要因と動作効率の双方を整理しながら、
バドミントンという競技特性に合わせて身体をどう整えていくべきかを解説します。
この記事でわかること
- ジョイントバイジョイントセオリーの基本的な考え方(可動性と安定性の交互配置)
- バドミントンのフットワークやスマッシュと、各関節の役割の関係
- 肩・膝・腰の痛みを「動きの質」の観点から捉え直す視点
- 明日から実践できるセルフチェックと簡単なモビリティ/スタビリティドリル
目次
1. なぜ「関節ごとの役割」を知るとプレーが変わるのか
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1-1. 痛みの原因は「痛む場所」にはないことが多い
スマッシュを打つと肩が痛いからといって、必ずしも原因が肩にあるとは限りません。
多くの研究で、痛みは「代償動作」が繰り返された結果として現れることが示されています。
つまり、ある関節が本来の役割を果たせないと、その上下の関節が無理をして動き、その結果として痛みが出る、という考え方です。
1-2. 「どの関節をよく動かし、どの関節を安定させるか」
Cook と Boyle は、人の身体を「関節の積み木」として捉え、
足関節・股関節・胸椎などは主に可動性(Mobility)、
膝・腰椎・肩甲帯などは主に安定性(Stability)を担う、と整理しました。
これがジョイントバイジョイントセオリーの出発点です。
この枠組みを理解すると、フォームの乱れやパフォーマンス低下を「関節ごとの役割の破綻」として説明できるようになります。
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2. ジョイントバイジョイントセオリーの基本
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2-1. 可動性と安定性の交互配置
ジョイントバイジョイントセオリーでは、身体の関節を下から順に見ると、
「よく動くべき関節」と「安定すべき関節」がおおむね交互に並ぶと説明されます。
| 関節 | 主な役割 | バドミントンでのキーポイント |
|---|---|---|
| 足関節 | 可動性(Mobility) | 素早い切り返し・減速動作のしなやかさ |
| 膝関節 | 安定性(Stability) | ランジ時のブレを防ぐ、怪我予防 |
| 股関節 | 可動性(Mobility) | 深いランジ・スムーズなターン |
| 腰椎(腰) | 安定性(Stability) | 過度な反り腰・ひねりからの腰痛予防 |
| 胸椎(胸まわり) | 可動性(Mobility) | オーバーヘッドストロークの可動域・打点の高さ |
| 肩甲帯 | 安定性(Stability) | 肩の位置決め、力の伝達の「土台」 |
| 肩関節(GH関節) | 可動性(Mobility) | スイングの大きさ・加速のしやすさ |
どこか一つの関節が本来の役割を果たせないと、その上下の関節にしわ寄せが来ます。
例えば、足関節が硬いと、膝が余計に動いてしまい、膝痛のリスクが高まります。
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3. バドミントン動作に当てはめた関節ごとの役割
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3-1. フットワーク:足関節と股関節が動かないと膝が壊れる
- 切り返し動作では、足関節の背屈・底屈がクッションの役割を果たす。
- 股関節の屈曲・伸展・外旋が十分だと、体幹を倒さずに遠くのシャトルに届く。
- これらが不足すると、膝関節の屈伸・ねじれが過剰になり、痛みの原因となる。
3-2. スマッシュ・クリア:胸椎と肩甲帯が鍵
- 胸椎の伸展・回旋が十分だと、肩を無理に挙げなくても高い打点が確保できる。
- 肩甲骨が安定していると、肩関節は「末端の加速」に集中でき、肘・肩の負担が減る。
- 肩関節単独でなんとかしようとすると、いわゆる「肩が詰まる」感覚が生じやすい。
3-3. 体幹:安定性があるからこそ四肢が自由に動く
体幹は「固める」のではなく、必要な方向の動きを許しつつ、不要なブレを抑える役割を持ちます。
体幹が不安定な状態では、上肢や下肢の筋力を十分にシャトルへ伝達できません。
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4. 痛みと動きの質をつなぐ視点
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4-1. 「痛む場所=原因」とは限らない典型例
- 肩の痛み:胸椎の可動性低下・肩甲骨コントロール不良が背景にあることが多い。
- 膝の痛み:足関節の硬さや股関節戦略の不足が原因となることが多い。
- 腰痛:股関節Mobility不足の代償として腰椎が過剰に動くことで生じやすい。
これらはいずれも「本来動くべき関節が動かない → 本来安定すべき関節が代償して動く」という流れで説明できます。
ジョイントバイジョイントセオリーは、この因果を整理するためのフレームワークです。
4-2. パフォーマンスの頭打ちも同じ構造で説明できる
痛みがなくても、可動性と安定性のバランスが悪いと「動きの効率」が落ちます。
その結果として、
- 試合後半で急にフットワークが重くなる
- 疲れるとフォームが崩れ、アウトやネットが増える
- 練習量を増やしても、ショットの質が頭打ちになる
といった現象が起こります。ここでも「どの関節が役割を果たしていないか」を整理することが出発点になります。
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5. 明日からできるセルフチェックとミニドリル
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5-1. 簡易セルフチェック
- 足関節:壁に向かって片膝立ちになり、つま先を壁から10cmほど離す。膝を壁に当てられるかどうか。
- 股関節:しゃがみ込み(深いスクワット)が、かかとを浮かさずに行えるか。
- 胸椎:椅子に座り、骨盤を固定したまま上半身を左右に回旋し、肩がどの程度後ろに向くか。
- 肩甲帯:壁にもたれて立ち、後頭部・肩・お尻・かかとを壁につけたまま腕を挙げられるか。
5-2. トレーニング前に入れたい3つのミニドリル
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足関節モビリティドリル(30秒×左右)
上の足関節セルフチェックと同じ姿勢で、膝を前後に小さく10〜15回動かす。 -
股関節ローディング・ヒンジ(10回)
軽く膝を曲げ、股関節を引き込むようにお尻を後ろへ引く。背中はフラットを保つ。 -
胸椎ローテーション(左右各10回)
四つ這い姿勢で片手を頭の後ろに置き、肘を天井方向へ開くように回旋する。
5-3. 「明日からの行動」を具体化する
最低限、次の3点を「明日の練習から」取り入れてみてください。
- 練習前に5分だけでも足関節・股関節・胸椎のモビリティドリルを行う。
- 痛みが出たときは、「その上下の関節の役割」を一度疑ってみる。
- 技術練習の動画を撮影し、フォームだけでなく関節の動き方にも目を向ける。
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6. まとめと今後の学び
ジョイントバイジョイントセオリーは、本来は動きのパターンを整理するための理論です。
その結果として、ケガの説明や障害予防にも応用されてきました。
バドミントンでは、フットワーク・オーバーヘッドストローク・体幹の使い方といった重要な動作を、
「どの関節がどの役割を担うのか」という視点から再設計するための強力なフレームワークになります。
今後は、Mobility / Stabilityをさらに細分化した評価や、
スキル(Skill)とムーブメント(Movement)の橋渡しを扱うことで、
より実戦的なパフォーマンス理論へと発展させていくことができます。
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6-1. 参考文献
- Cook G, Burton L, Hoogenboom B. Movement screening and the joint-by-joint approach.
- Boyle M. Advances in Functional Training.
- Kibler WB. The role of the scapula in athletic shoulder function. Am J Sports Med. 1998.
- Hodges PW, Cholewicki J. Spinal stability and motor control.
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