スマッシュの切れ味、ネット前での素早い差し込み、コート全体をカバーするフットワーク。
こうした「キレ」のあるプレーには、単なる筋力ではなく爆発的パワー(explosive power)が深く関わっています。
一方で、筋トレはしているのに「動きの速さ」や「跳躍の鋭さ」がなかなか変わらない、という声も少なくありません。
本記事では、スポーツ科学の文献をもとに、バドミントンにおける爆発的パワーを整理し、
中〜上級プレイヤーが「明日からの練習に落とし込める」レベルまで具体化していきます。
この記事でわかること
1. 爆発的パワーとは何か:筋力とスピードの掛け算
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1-1. パワーの定義:Power = Force × Velocity
まず確認しておきたいのは、パワーは「力(Force)×速度(Velocity)」で定義されるという点です。
より具体的には、短時間でどれだけ大きな力を発揮できるかを表す指標であり、単純な筋力(最大挙上重量)とは区別されます。
1-2. 筋力・スピード・パワーの違い
- 筋力(Strength):ゆっくりでもよいので、どれだけ大きな力を出せるか
- スピード(Speed):軽いものをどれだけ速く動かせるか
- パワー(Power):ある程度の負荷を、素早く動かす能力
高重量のスクワットができても、その動きが極端に遅ければ、
コート上の「最初の一歩」や「ジャンプの立ち上がり」にはつながりにくい、ということです。
1-3. バドミントンが“速度依存型スポーツ”である理由
バドミントンでは、以下のような場面で爆発的パワーが要求されます。
- サーブ直後のスプリットステップと初動のダッシュ
- ストップからストップへの急激な方向転換
- ジャンプスマッシュやプッシュといった高強度ショット
これらはいずれも「0.2〜0.3秒程度の非常に短い時間」で力を発揮する必要があり、
パワーの中でも力の立ち上がり速度(Rate of Force Development, RFD)が重要になります。
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2. 爆発的パワーを決める3つの要素
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2-1. 最大筋力:パワーの“上限”を決める土台
多くの研究で、最大筋力が高い選手ほど、スプリント・ジャンプ・方向転換に優れる傾向が報告されています。
最大筋力は「どこまでエンジンを大きくできるか」に相当し、この上限が低いとパワー向上にも限界が生じます。
2-2. RFD:どれだけ素早く力を立ち上げられるか
試合中の接地時間は非常に短く、力をゆっくり溜めている余裕はありません。
RFDは「接地した瞬間から、どれだけ急激に力を伸ばせるか」を示し、切り返しやスプリットステップの質と密接に関係します。
2-3. SSC(ストレッチ・ショートニング・サイクル)能力
ジャンプやステップでは、素早い伸長(eccentric)→短い滞留時間 → 直後の短縮(concentric)という一連の流れが繰り返されます。
これをストレッチ・ショートニング・サイクル(SSC)と呼びます。
SSCの効率が高い選手ほど、
- 少ない力で大きな反発を得られる
- 接地時間を短く保ったまま、推進力を得られる
という利点があり、フットワーク全体の「軽さ」に直結します。
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3. トレーニング科学から見たパワー向上の原則
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3-1. 「最大筋力 → パワー」の順に鍛える
レビュー論文では、十分な最大筋力を持つ選手の方が、パワートレーニングによる伸びも大きいことが報告されています。
つまり、体幹や下肢の基本的な筋力が不足している場合、まずはベーシックなレジスタンストレーニングで土台を作ることが推奨されます。
3-2. 中〜やや軽い負荷 × 高速度が「パワーゾーン」
パワーは多くの場合、1RMの30〜60%程度の負荷をできるだけ速く挙上したときに最大化するとされています。
下表は目的ごとの代表的な負荷ゾーンのイメージです(あくまで目安)。
| 目的 | 目安負荷(%1RM) | 特徴 |
|---|---|---|
| 最大筋力の向上 | 80〜100% | 動きは遅いが高い力を発揮 |
| パワーの向上 | 30〜60% | 中〜軽負荷を高速で挙上 |
| スピード寄りのパワー | 0〜30% | 自体重ジャンプや軽負荷での高速動作 |
3-3. プライオメトリクスの位置づけ
プライオメトリクストレーニング(ジャンプ系の反動利用トレーニング)は、SSC能力とRFDを高めるための代表的な方法です。
週2〜3回、6〜8週間程度の実施でも、ジャンプ力やスプリント能力の向上が報告されています。
ただし、着地衝撃が大きいため、
- 十分なウォームアップ
- 段階的な強度の設定(低い台 → 高い台へ)
- 週あたりのジャンプ総回数の管理
など、リスク管理を徹底することが重要です。
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4. バドミントン動作と爆発的パワーの関係
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4-1. スプリットステップと初動ダッシュ
スプリットステップは、相手の打球に反応していつでもどの方向にも動き出せる状態を作る動作です。
着地直後に素早く力を発揮する必要があるため、SSC能力とRFDが直接的に関わります。
4-2. 方向転換・切り返し
サイドライン際からセンターへの戻りなど、バドミントンでは連続した方向転換が不可避です。
ここでも、
- 減速(ブレーキ)をかけるエキセントリックな筋力
- そこから再加速するコンセントリックなパワー
が重要であり、最大筋力とパワーの両方が求められます。
4-3. ジャンプスマッシュと下肢・体幹パワー
ジャンプスマッシュでは、単に高く跳べるだけでなく、短時間で踏み切りの力を床に伝えることが必要です。
これは、スクワットやデッドリフトで養われた下肢筋力を、ジャンプ動作に「変換」する過程とも言えます。
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5. 明日からの練習に入れたい「3つの行動」
最後に、今日からでも取り入れやすい実践例を3つ挙げます。
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5-1. 低強度ジャンプでSSCを整える(ウォームアップに10分)
- その場でのポゴジャンプ(足首主体の小さな連続ジャンプ)を20〜30回×2〜3セット
- スプリットジャンプ(軽いジャンプ+スプリット着地)を8〜10回×2セット
高さよりも「接地時間を短く・姿勢を安定させる」ことを優先しましょう。
5-2. 中負荷×高速スクワット(30〜60%1RMの感覚)
- 自体重スクワットまたは軽いダンベル/バーベルを使用
- 8回程度を、1回ごとにできるだけ速く立ち上がる意識で3セット
- フォームが崩れない範囲で、動作速度を最優先
5-3. 反応ステップ+2歩ダッシュのルーティン(練習前3分)
- パートナーに左右前後をランダムにコールしてもらう
- コールと同時にスプリットステップ → 指定方向へ2歩ダッシュ
- 5方向(前後左右+後方クロス)をランダムに10〜15回繰り返す
これは、RFDと意思決定のスピードを同時に鍛える簡単なドリルです。
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6. まとめ:パワーは「強さ × 速さ × 技術」の掛け算
- 爆発的パワーは、筋力とスピードの掛け算であり、どちらか一方だけでは高めにくい。
- 最大筋力・RFD・SSCの3つが、バドミントンのパフォーマンスを支えている。
- 中〜軽負荷×高速度、プライオメトリクス、競技特異的なドリルを組み合わせることで、
試合での「キレ」を狙って高めることができる。
重要なのは、「筋トレ」と「動きの練習」を切り離さないことです。
爆発的パワーを意識したトレーニングを、日々のフットワークやショット練習と結びつけていきましょう。
参考文献
- Cormie P, McGuigan MR, Newton RU. Developing maximal neuromuscular power. Sports Medicine. 2011.
- Cormie P, et al. Developing maximal neuromuscular power: Part 2 – Training considerations for improving maximal power production. Sports Medicine. 2011.
- Suchomel TJ, Nimphius S, Stone MH. The Importance of Muscular Strength in Athletic Performance. Sports Medicine. 2016.
- Suchomel TJ, et al. The Importance of Muscular Strength: Training Considerations. Sports Medicine. 2018.
- American College of Sports Medicine. Progression Models in Resistance Training for Healthy Adults. Med Sci Sports Exerc. 2009.
- Markovic G, Mikulic P. Neuro-musculoskeletal and performance adaptations to lower-extremity plyometric training. Sports Medicine. 2010.


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